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さて、ヴェネツィア広場まで来ると交通の量も半端ではなく、信号を守っていても身の安全を守れない地帯となります。イタリアを統一した偉人を記念して創られた白亜の大建築物が目印の広場ですが、その建物の道路を挟んだ向かい側に何の飾り気もなく建つのがヴェネツィア宮殿。何かと話題のムッソリーニが2階のバルコニーから身を乗り出して演説したシーンは有名です。

《トレヴィの泉》や《スペイン階段》は余りにも有名で、くだくだ説明すると陳腐でさえありますが、定番なので顔を出しに行ってみました。
いやあ、期待通りの人、人、人。観光客9割、その人たちをだまそうとしている悪人1割……っていう感じでした。

スペイン階段ではアイスクリームを食べるのが禁止されているようで、階段そのものには意外にも人は余り多くありません。こんな叩きつけるような強烈な暑熱の中、階段に座って愛など語らっている場合ではないようです。

さきほどのヴェネツィア広場から北に一直線に延びるコルソ通りを右手に入ると、スペイン広場に通ずるコンドッティ通りです。ここはローマ一のブランド街。プラダ、アルマーニ、グッチ、フェラガモ、シャネルなど、名だたるブランドショップがひしめく表参道のような界隈なのですが、わたくしにとっては一つ一つが堅固な要塞のようなもの。足を踏み入れようものなら店員の目の力だけで追い払われてしまう怖れがあります。しかし、出発前からここは奮発してジャケットの一つも買ってみるかと思っていましたので、頑張ってPがつくたいそう有名なショップに入ってみました

涼しくて美しい店内でジャケットやスーツを眺めておりますと『俺が着ても馬子にも衣装ってことになりかねないな……』などといきなり弱気に……いやいや、着こなしはパワーで勝負だ!……などとわけの分からないことを胸に秘めて値札をめくると、自分自身が急速にしぼんでいくのがよく分かります。いきなり気温が上がった昼下がり、どんどん溶けていく雪だるまに似ています。
そんなわけでサングラスを買いました!

最初の1軒だったわけですが、別の店に入って物色しようなどという気概がなくなってしまったのは言うまでもありません。

柄にもなくブランドの店をもぐりこんだ後は、日差しがより一層厳しくなった炎天下での散策です……こうなったら行軍と言ってもいいかも知れません。呪いのように暑いのですが、こんな6月の天候は非常に珍しいとのこと。まったくひどい話です。


気を取り直してやってきたのは《パンテオン》。全ての神々に捧げられた古代ローマの遺跡では殆ど唯一の完全な建築物です。アウグストゥスの右腕アグリッパが建てたものをハドリアヌスが改築したもので、ミケランジェロが『天使の設計』と賞賛したローマ建築です。天井には直径9メートルの丸天窓が開き、自然光が中をゆったりと照らします。

ローマ時代の建築物は何でもかんでも破壊したと言われるキリスト教時代ですが、このパンテオンは余りに頑丈なためか生き残り、ローマの神々の代わりにキリスト教の守護聖人の彫像が置かれたとか。
ちなみにこのパンテオンにはラファエロの墓があります。

パンテオンの真ん前にマクドナルドがあるのは辟易なので、すぐに移動して辿り着いた先が《ナヴォーナ広場》。

世界でも有数の美しさと言われる大きな広場で、上空から見ると競技場のように形をしているのが分かります。


ローマ時代にはドミティアヌス競技場があったところで、この広場はその跡地に造られたものです。
3つの巨大な噴水があり、真ん中にあるのが《四大河の噴水》。
ベルニーニ作のもので、四大河とはナイル、ガンジス、ドナウ、ラプラタだそうです。

そうそう。ベルニーニの作品を観たければボルゲーゼ美術館に行かれることをおすすめします。

ボルゲーゼ公園の端っこにある《プライベートコレクションの女王》と呼ばれる美術館です。17世紀の枢機卿だったシオピーネ・ボルゲーゼの館をそのまま美術館にしたもので、ベルニーニの作品を始め、ラファエロ、ティツィアーノ、コレッジオ、カノーヴァといった殿方の作品を堪能することが出来ます。なぜか古代ローマの皇帝たちの頭像もあったりして、最高に楽しめます。

この美術館は予約していかないと原則的に入場することが出来ません。わたくしは日本でWEB予約をしていきました。日にちと時間を指定すると向こうからイタリアンらしからぬ迅速さで返答が来たのには驚きましたが『30分前には来て手続きしないと入れてやらないよ』と書いてあったのには更に驚きました。時間を守らないことにかけては人後に落ちないイタリアンにそんなことを言われるとは!

ところで、このボルゲーゼ公園、とてもいい雰囲気です! 広大な敷地には森、池、ふたつの博物館、ひとつの美術館、動物園、馬事公苑、各国のアカデミーが点在しています。ローマっ子たちの憩いの散歩道で、緑に囲まれてベンチに座ると、大都会のど真ん中にこんな空間があるのかと驚かされます。
東京で言うと皇居か新宿御苑みたいなものですね。

わたくしがイタリアに行ったのは6月の最終週。それなのにどうしてワールドカップのサッカーに触れないんだ?……とお考えの向きもあろうかと存じます。もちろん触れないわけにはいかないのですが、しかし、日本はあえなく予選敗退。考えるも悲しい話なので最後までよけて通ってきたのです。
しかし現在身を置くのはイタリアはローマ。
ASローマ、ラツィオという強豪チームを抱え、イタリアといえばサッカーというくらいのお国柄。

夜中に一人ローマの街角をふらりと歩いていると、何やら騒がしい一角が。

覗いてみると、街角のレストランが通りにテレビを引っ張り出してイタリア対ウクライナの試合を客に見せています。日本のスポーツバーみたいな大きなディスプレイなどではなく、ただの21インチくらいの箱型テレビ。わたくしも飲みながら一緒に見ることにしました。余っている椅子を引き寄せて、既に暴動寸前のイタリアンたちと観戦です。


すると隣のお兄ちゃんから
「お前、イタリアとウクライナ、どっちを応援してるんだ?」とご下問が……
「イタリアに決まってるじゃないか!」
とわたしは当然のように上奏。

ここで返答をためらったり、あろうことか「ウクライナ」などと言った日にはおなじみのムッソリーニのように逆さ吊りにされるのは明らかです。


もしこれが日本対イタリアだったなら。
もちろんホテルから一歩も出ません。
どうしてもご飯が食べたい場合は、おさおさ怠りないように周囲に気を配り、路地から路地に張り付いて移動し、近くの中華料理屋に行きます。まあ、そこにもイタリアンが群れていたら「ジ・エンド」ですが。まるで命がけで逃走して辿り着いたアジトにナチスのSSがいたときのようなもので、その時は腹をくくるしかありません。

とにかく、イタリアチームのいいプレイがあれば地面が抜けそうなくらいの大歓声、ウクライナチームにいいプレイがあれば声だけで抹殺しようとするかのような大ブーイング。ザンブロッタだのカンナバッロだの大騒ぎです。
2点目が入った瞬間など、ミサイルが着弾したかのような騒乱に。余りの騒動に治安部隊に放水されかねない勢いです。まあ、ローマというかイタリア各地で同じよう騒ぎを巻き起こしているでしょうから、全土でいちいち放水なんかしていたらトイレを流す水もなくなり、大変なことになるんでしょうけど。

しかし、カンナバッロという名前は、タクラマカン砂漠辺りの伝説の都市の名前を連想させてくれます。
かつては隆盛と栄耀を極めた街が、年月に洗われ歴史の試練に耐え切れず、廃虚と化してしまったかのような物悲しさがあります。

おや。古代ローマもそんな感じですね。とはいえ、ローマに関しては『なぜローマは滅んだのか』ではなく、『なぜローマはここまで興隆したのか』を問うたほうが人類には有益だと、この頃とみに考えさせられます。

それと一緒に考えさせられるのが、どうしてイタリアがG8にいるのか……そんな話をイタリア在住のライターさんとしたところ下記のような回答が。

『小学生や中学生の頃、いましたよね? 5教科の成績はまったくダメだけど、体育や図画工作をさせたら通信簿が9とか10の子って。きっとイタリアはそうなんですよ』

名答だと思います。

最後の最後にわたしのお腹を満たしてくれて、イタリアは食の国だと思い知らされた食べ物の画像を。








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